損保横断2026年Q1
- 東京海上ホールディングス株式会社 — 機械照合率 98%
- MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 — 機械照合率 97%
- SOMPOホールディングス株式会社 — 機械照合率 95%
損保3メガ ピアグループ深掘り比較レポート
(東京海上HD / MS&AD / SOMPO — 2026年3月期・IFRS初度適用初年度)
エグゼクティブサマリー
3社とも当期からIFRS(国際会計基準)へ移行し、政策保有株式(取引先との関係維持目的で持つ株式)の売却・自然災害の少なさ・円金利上昇という共通環境の下で増益となった。最大の分岐は2つ。①国内生保のALM(資産・負債の総合管理)対応: 東京海上は国内生保で税引前△2,821.4億円、MS&ADはMSA生命が△602.9億円と、2社は債券売却損を出してでも入替を断行したのに対し、SOMPOの国内生保セグメントは利益298.8億円→686.0億円と増益で、売却損計上の形跡がない(出遅れ=将来の入替フロー候補)。②海外への資金の出し方: SOMPOはAspenの100%買収(純支出3,003.4億円)、MS&ADはW.R. Berkleyへの少数戦略出資(取得6,503.4億円)+初のユーロ建社債、東京海上は代理店フィービジネスのボルトオン買収+Berkshireとの資本提携という三様。
情報源の状況
| 会社 | 一次情報 | 粒度の特徴 |
|---|---|---|
| 東京海上HD | EDINET有報(S100YLS8・IFRS)+2027/3期Q1短信+機械差分・時系列 | 金融商品注記が最も詳細(円債/外債/証券化の種類別残高、ヘッジ指定名目まで数値で取れる)。満期構成・金利ショック試算は機械パース不可 |
| MS&AD | EDINET有報(S100YNCJ・IFRS)+Q1短信+機械差分・時系列 | 政策株の売却・取得・保有目的変更が銘柄数まで取れる。ヘッジ注記に想定元本あり。一部注記は百万円表のまま(本レポートでは金額引用せず) |
| SOMPO | EDINET有報(S100YC6Z・IFRS)+Q1短信+機械差分・時系列 | Aspen企業結合注記あり。ただし取得資産内訳・再保険調整表・担保注記は百万円表が多く、金額の直接引用ができない箇所が3社中最多 |
3社とも情報源の種類は対等(上場・有報あり)だが、注記の機械換算カバレッジに差があり、SOMPOの外債・再保険の定量比較は他2社より粗い。この差は本文で都度明示する。満期構成・+100bp試算は3社とも機械抽出不可で、デュレーション比較は本レポートでは行えない。
共通トレンド
- IFRS初度適用と「利益の質」の断層: 3社とも増益だが中身が異なる。東京海上はIFRSでは政策株売却益が純損益に出ない(FVOCI指定・利益剰余金へ直接振替)ため、IFRS純利益5,312.6億円が日本基準9,804億円を下回る逆転が発生 [東京海上HD/有報]。MS&ADの+2,104億円は「実質改善+前期減損剥落(減損885.3億円→16.1億円)」の二層 [MS&AD/有報]。SOMPOの+3,970億円は保険サービス損益+2,841億円と市況依存の金融損益+2,251億円の両輪 [SOMPO/有報]。
- 円金利上昇の両面効果: 資産側の債券評価損累計が拡大(MS&AD △7,521億円→△10,093億円、SOMPO △4,280億円→△7,205億円、東京海上も負債性OCI累計△13,111億円→△14,318億円)する一方、保険負債の割引率上昇が資本にプラス(割引率変動差額: 東京海上OCI+3,331.3億円、MS&AD+3,925億円、SOMPO+3,888億円)[各社/機械差分]。3社とも負債側プラスが上回るか拮抗し、金利上昇は資本面でネット懸念材料ではない。
- 円安による外貨資産・在外換算のかさ上げ: 在外営業活動体の換算差額OCI(税引後)は東京海上+3,468.0億円、MS&AD+2,452.9億円、SOMPO+1,594億円 [各社/機械差分]。外債・海外資産の残高増加の一部は円安による見かけ増であり、実勢シフトとの分解は3社とも開示からは不可能。
- 株主還元の総量拡大: 自己株取得は東京海上2,516億円・MS&AD 2,215.0億円・SOMPO 2,292.9億円、増配は218円→245円予想/145円→170円予想/翌期200円予想(13期連続増配)[各社/有報・短信]。
- 翌期Q1はいずれも増益で着地、通期予想は3社とも据え置き(東京海上: 税引前3,781.7億円+11.5%・通期8,300億円、MS&AD: 4,409.3億円+33.4%・通期4,250億円、SOMPO: 2,403.3億円+59.3%・通期4,900億円)[各社/Q1短信]。MS&AD・SOMPOは通期減益予想であり、当期の災害僅少・市況追い風を巡航速度と見ていない。
各社の分岐
分岐1: 国内生保ALM — 2社は損出し断行、SOMPOは未着手
- 事実: 東京海上の国内生保は税引前△2,821.4億円(前期比△1,750億円)。MD&Aが「資産・負債管理の一環として実施した債券売却に伴う損失」と明言し、FVOCI債券の純損益への組替調整額は4,616.1億円(前期2,749.2億円)、再保険料支払8,220.1億円(前期5,934.5億円)と出再も併用 [東京海上HD/有報]。MS&ADもMSA生命が△602.9億円へ赤転(前期比△826億円)、金融損益△1,669億円は「債券売却損の計上など」[MS&AD/有報]。対してSOMPOの国内生保セグメントは利益686.0億円(前期298.8億円)と増益で、売却損計上の形跡がなく、セグメント資産△3,627億円は時価減少+変額シフトの複合と推定される段階 [SOMPO/有報・確定知見]。
- 仮説: 3社とも同じ円金利上昇に直面しており、SOMPOの生保も入替インセンティブ自体は同方向。着手時期の差であり、SOMPOには入替フローが「これから」発生する可能性がある(要確認)【確度: 中】。
分岐2: 海外成長投資の形態 — 100%買収 vs 少数出資 vs ボルトオン
- 事実: SOMPOはAspenを2026年2月24日に100%取得(保有現金控除後の純支出3,003.4億円)、海外セグメント資産+29,212億円(+55.7%)[SOMPO/有報]。MS&ADはW.R. Berkley株を戦略的提携目的で取得(政策株区分の取得価額6,503.4億円、うち特定投資株式明細6,228.9億円)し、持分法投資が2,250億円→9,175億円へ急増、Barings持分18%取得にも合意 [MS&AD/有報]。東京海上はIgnyte(対価1,028.3億円)・CIH(1,500.0億円・PPA暫定)の代理店・フィービジネス2件のボルトオン [東京海上HD/有報]。
- 仮説: リスクの取り方が「引受リスクごと連結(SOMPO)/パートナーの引受リスクに間接参加(MS&AD)/手数料収益の取込み(東京海上)」と明確に分かれており、外貨資金需要の性格も、一括大型(SOMPO)・出資+起債セット(MS&AD)・小口継続(東京海上)と対応する【確度: 高】。
分岐3: 外貨調達・ヘッジ手段の構成
- 事実: MS&ADは当期に社債発行4,578.5億円(前期ゼロ)、うち初のユーロ建普通社債2本(2030年・2034年償還)を発行し、ユーロ受取・円支払の通貨スワップと米ドル買建為替予約を新設。残存12ヵ月超の通貨スワップ想定元本は1,009.0億円→3,587.5億円 [MS&AD/有報]。SOMPOは後発事象で米ドル建シニア債13億ドル(利率5.411%、資金使途は損保ジャパンへの劣後ローン)[SOMPO/有報]。東京海上はHD起債ではなく、借入のグロスロール(借入収入18,753.3億円/返済18,478.6億円)と米FHLB経由のFunding Agreement(投資契約負債8,690.2億円→11,788.4億円)で回し、為替は純投資ヘッジの為替予約名目15,316.4億円(全額1年以内・毎期ロール)で管理 [東京海上HD/有報]。
- 仮説: MS&ADは「新通貨(ユーロ)参入直後」でカウンターパーティ枠が固まっておらず、参入余地が3社中最大。SOMPOはドル建て発行→円建てとみられる劣後ローンで、HD階層に為替ミスマッチが生じている可能性がある(貸付通貨は開示なし・要確認)【確度: 中】。
分岐4: 自己株式の使途 — 消却継続の2社 vs 提携原資へ転換した東京海上
- 事実: MS&ADは消却3,537億円(2025年11月28日)、SOMPOは消却2,196億円(2025年5月30日)を実施し、いずれも資本剰余金が大きく減少(SOMPOは△1,874.4億円へ赤転、会計処理であり損失ではない)[各社/有報]。東京海上は前期まで毎期実施していた消却を当期停止し、保有自己株48,207千株をBerkshire傘下National Indemnityへ第三者割当処分(2,874.1億円・2026年4月13日払込)、同額の希薄化抑制買付+新規2,000億円枠を設定 [東京海上HD/有報]。
- 仮説: 東京海上の自己株は「還元の器」から「提携・M&Aの通貨」へ役割が変わった。Berkshireとの再保険協働・共同投資が実行段階に入れば、大型の外貨ファイナンスイベントに接続する【確度: 中】。
必須テーマ1: 国内保険事業の動向 — 料率改定・自然災害・ベース収支は本物か
結論: 引受収益力の改善は3社共通で実在するが、当期増益の相当部分は自然災害の僅少という「借り物」であり、各社自身の翌期減益予想がそれを裏書きしている。
- トップライン(正味収入保険料・日本基準): 東京海上53,052億円→55,663億円(+4.9%)、MS&AD 46,743億円→50,048億円(+7.1%・5期連続増)[各社/機械差分・時系列]。SOMPOは当期からIFRS単独開示となり同指標の当期値が消滅(前期40,166億円)[SOMPO/機械差分・消滅項目] — 開示体系の変更であり業績悪化の信号ではないが、横並び比較はここで途切れる。火災保険の料率改定と単価是正が増収の共通ドライバーである(各社MD&A)。
- セグメント利益: 東京海上の国内損保は税引前1,701億円→3,252億円(+91.1%)[東京海上HD/機械差分]。SOMPOの国内損保はセグメント利益583億円→2,681億円(+359.6%)[SOMPO/機械差分]。MS&ADはグループの保険サービス損益が前期比+1,970億円で、増収と自然災害ロス減少が主因と会社が明記 [MS&AD/有報]。
- 「本物」の度合いの検証: 3社とも会社自身が翌期を保守的に見ている。MS&ADは翌期予想4,250億円(減益)で、国内損保は災害平年並み前提の翌期予想1,700億円 [MS&AD/有報・確定知見]。SOMPOも修正連結利益を当期5,352億円→翌期5,000億円と減益予想 [SOMPO/有報]。つまり料率改定によるベース収支の底上げは各社とも織り込むが、当期水準の利益をベースとは見ていない。一方、翌期Q1は3社とも国内損保が増益方向で推移しており(各社Q1短信。セグメント表は百万円建てのため金額引用は割愛)、少なくとも即時の反転は起きていない。
- 含意: 与信面では中核事業の構造改善(料率改定サイクル)が3社共通の信用力の裏付けになる。
必須テーマ2: 政策保有株式の削減進捗 — 3社対比
結論: 売却の実行力は東京海上が最大、方針の踏み込みはMS&ADが最先端(「保有しない方針」を初明記)、SOMPOは売却継続だが残高は反転増。ただし「残高」は開示区分の器であり、戦略出資・株価上昇が混ざるため、売却の後退とは読めない。
| 社(最大保有会社) | 当期売却価額 | 売却銘柄数 | 期末残高(上場) | 前期残高 |
|---|---|---|---|---|
| 東京海上(東京海上日動) | 7,422.4億円 | 463銘柄 | 19,217.7億円 | 21,653億円 |
| MS&AD(三井住友海上) | 4,636.5億円 | 286銘柄 | 20,450.6億円 | 15,753億円 |
| MS&AD(あいおいニッセイ同和) | 2,244.7億円 | 241銘柄 | 8,386.7億円 | 7,846億円 |
| SOMPO(損保ジャパン) | 2,712.8億円 | 284銘柄減 | 12,500.1億円 | 11,648億円 |
[各社/有報・数値ファクト・時系列]
- 区分と経済実態を分ける(最重要): MS&ADの残高増(15,753億円→20,451億円)は、W.R. Berkley株6,503.4億円の取得(増加はわずか3銘柄)が「純投資目的以外」区分に計上されたことと株価上昇によるもので、取引先持ち合い株の解消の後退ではない [MS&AD/有報・確定知見]。同社は「政策株式は保有しない方針」を注記に初めて明記しており、方針面では3社の先頭にいる。SOMPOの残高増(11,648億円→12,500.1億円)も売却284銘柄の実行と併存しており、時系列ではFY2024の16,758億円から大きく削減した後の増加。株価上昇による評価かさ上げの可能性があるが、開示からは分解できない(要確認)。東京海上は残高・銘柄数とも一方向に減少しており(FY2024 35,615億円→当期19,218億円)、削減の実行スピードは最大。ただし同社もIFRSの資本性金融商品全体では33,110.0億円→34,221.8億円と残高増であり、FVOCI指定(政策保有目的)分に限れば24,306.6億円→22,657.9億円と減少している [東京海上HD/有報] — 「政策株削減」と「株式エクスポージャー削減」は別物である点は3社共通。
- 売却益の見え方の差: 東京海上はIFRSで売却益が純損益に出ない(処分利得累計6,640.5億円は利益剰余金へ直接振替)ため、削減ペースはPLでなくOCI・振替額で追う必要がある [東京海上HD/有報]。SOMPOは提出会社単体で投資有価証券売却益2,335億円が特別利益に計上され(単体・別集計)、「政策株式売却損益等(税後)の50%を追加還元」という明文方針で還元に接続している [SOMPO/有報]。
- 売却計画の先行き: SOMPOは2026年度2,500億円以上の追加売却を計画 [SOMPO/有報]。東京海上・MS&ADの年度売却計画額は本入力からは特定できない。
必須テーマ3: 海外事業の買収とその後 — 統合進捗・利益貢献・のれんとリスク
結論: 海外は3社とも当期利益の柱だが、買収の「その後」のフェーズが揃って初期段階にあり、のれん・PPA(取得原価配分)の確定が翌期の共通チェックポイント。
| 社 | 当期の主要ディール | 規模 | のれん・持分の動き | 取得後の利益貢献 |
|---|---|---|---|---|
| 東京海上 | Ignyte・CIH(米・代理店/フィー) | 対価1,028.3億円・1,500.0億円 | のれん3,998億円→5,915億円(企業結合取得1,560.2億円+換算差額357.0億円)。CIHは暫定処理 | 海外セグメント税引前5,089億円→6,863億円(+34.9%) |
| MS&AD | W.R. Berkley少数出資・Barings 18%合意 | WRB取得6,503.4億円 | 持分法投資2,250億円→9,175億円(+307.8%) | 海外セグメント収益21,270億円→24,681億円(+16.0%) |
| SOMPO | Aspen 100%買収(2026年2月24日) | 純支出3,003.4億円 | のれん1,899億円→2,291億円(逸脱4.2σ・トレンド転換)。海外セグメント資産+29,212億円 | 取得日以降のAspen当期利益は△18.7億円(赤字) |
[各社/有報・機械差分・時系列]
- 東京海上: 買収目的は代理店事業・フィービジネスと明記され、引受リスクではなく手数料収益の取込み。のれん増加は2件+円安換算で概ね説明でき(機械検証済み)、無形資産の償却負担は修正純利益からは除外される設計。CIHのPPA未確定により翌期にのれん・無形の遡及修正がありうる [東京海上HD/有報]。海外の前期比増益寄与+1,121億円は当期増益の最大ドライバー。
- MS&AD: 連結せず持分法・戦略出資で海外引受に間接参加する形。起債(4,578.5億円)→出資という調達・投資の時系列が確認されており、買収資金の先行確保型。リスクは「のれん」ではなく持分法投資の評価に移る。なお前期の海外のれん減損885.3億円(MS First Capital等)は当期16.1億円まで剥落し、追加減損は発生していないが、海外セグメントでは当期も小規模の減損14.9億円がある [MS&AD/有報]。海外利益は円安・災害僅少の追い風込みで、会社の翌期減益予想はこの反転を織り込む。
- SOMPO: 当期は2ヵ月分の連結にすぎず、Aspenは取得日以降赤字(△18.7億円)。買収目的の「再保険ポートフォリオと英国市場」の成否は翌期の通年連結で初めて判定可能。保険契約負債107,376.8億円の測定と海外のれんの評価がKAM(監査上の主要な検討事項)に挙がる規模となり、見積り依存度は3社中最も上がった。担保提供資産も約6,300億円規模から約1兆円規模へ増加しており(原表は百万円表記・目的の特定は不能)、資産の担保化進行は与信上の注視点 [SOMPO/有報・確定知見]。
要確認事項
- SOMPO国内生保の入替方針: セグメント資産△3,627億円の内訳(時価減少か売却か)を示す開示が無い。次回有報の投資有価証券注記・生保単体開示で売却損の有無を確認したい。
- MS&ADはヘッジ対象に「外債(資産)」が挙がっていない点も含め、ヘッジ注記の次期更新を要確認。
- SOMPO劣後ローンの通貨: 13億ドル調達→損保ジャパンへの劣後ローンの貸付通貨が開示されておらず、HD階層の為替ミスマッチの有無が判定できない。
- PPA・のれんの確定: 東京海上CIH(暫定処理)とSOMPO Aspenの取得原価配分確定による遡及修正の有無。MS&ADは海外資金生成単位の追加減損の有無。
- 原文注記(金融商品・満期分析)の個別参照が必要。
- 政策株残高増(MS&AD・SOMPO)の分解: 株価上昇・戦略出資・新規取得の寄与分解は開示からは特定できない。次期の銘柄明細(増加銘柄数・取得価額)で検証する。
本レポートは公表情報のみに基づく情報提供であり、投資助言ではありません。 出典: EDINET (金融庁)・TDnet (東証)・各社公表資料。詳しくは免責事項をご覧ください。
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